こんにちは!
文章を書くには、正しい言葉を知っていこうと思い、辞書を買いました。
印刷版です。本は印刷版のほうが好きという方も多いと思います。指先に触れる紙が心地良い。学生時代の名残でしょうか。
パラパラめくっていると…
【いきれ】( 造語 )という言葉をみつけました。
意味は『おおぜいの人の息・体温から発したり、生い茂った夏草から蒸散したりする熱気のために、暑くてむっとする状態。また、その熱気。』
「人いきれ・草いきれ」
という言葉が、目に留まりました。
今日は、思い出したエピソードを書きます。
10年前、満員電車での通勤が日常だった。夏場のラッシュ時は、どの車両も人いきれでむせ返るよう。
ホームでは、上り下り共に乗車待ちの列ができていて、人を掻き分けながら歩かないと進めない混みようだ。
列車が入ってくるが、すでに満員状態。
表情を変えることなく、迷わず乗り込んでいく人々、全身で押し込む駅員たち。
扉が閉まると、発車の合図でゆっくり動き出し、やれやれという駅員の顔が流れていく。いつものことだが、侮蔑された気分になる。
あとは、誰もが平静を装って、目的地まで静かに耐えるだけだ。
ほぼ全員が終点で降りる。
ドアが開き、扉付近の乗客たちが、ダムの放水のように溢れ出た。
こけそうになる人、前髪の乱れを気にする人、進む方向だけを見据えた人、さまざまだ。
ホームに出ても混雑は続く。改札を出るまでは、まだまだ人との距離が近い。
別に不自然なことではない。でも。
それにしても、あの日は妙に近かった。しかも、何か言っている。
「…えっと、あの…あ、ちょっと!」
人間不信で猜疑心が強かった私は、なんですか?、と、ぶっきらぼうに振り返った。
怖い顔をしていたのだろう。
相手は目をまん丸に見開いて、狼狽していた。
「ちがうんですよ、あの、紐が…」
見ると、私のカバンから水筒の紐が出ていて、男のワイシャツのボタンに引っ掛かっていたのだ。
わっ!ごめんなさい!!、と言って外した。
男は、ちょっと口をとがらせて「いえ別に…」と去って行った。
なぜあんなに、人に怯えていたのだろう。満員電車の通勤は、幸せを何一つ与えてくれなかった、と今でも思う。
そういう暮らしと、折り合いがつけられなかったのだ。
人いきれなんて、無縁の環境にいる。少し哀しくて、懐かしい遠い日の話だ。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。